有限会社 三九出版 - 《自由広場》          ト イ レ 考


















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               ト イ レ 考

                      鈴木 俊英(神奈川県相模原市)

 歌手の水前寺清子氏が雑誌の対談で話しておられたことですが,彼女のヒット曲の一つである「押してもだめなら引いてみな!」の歌詞は,作曲家の星野哲郎氏が新宿のスナックで飲んでいるときに,トイレでの会話からヒントを得て生まれたのだということです。星野氏がスナックで酒を飲んでいるときに,トイレのドアを開けようとすると,立てつけが悪く開かない。そこで「ママ,このドア押しても開かないよ」と言ったことに対して返ってきた言葉が「押してもだめなら引いてみな!」であったという。氏はなるほどと思い,あまりにも当然すぎる反応に思わず納得してしまったということである。しかし,その言葉が妙に印象に残ったのでメモしておいた,それが彼のヒット曲の誕生につながったということである。ふだん何気なく交わされる言葉の中にもその場の状況できらりと光って印象に残る言葉があるということであろう。さすがは詩人と,言葉に対する感性の鋭さに感心したものです。しかもそれがトイレの入り口のドアに隠れていたのが面白い。
 また,俳優の故勝新太郎氏がこれも雑誌の対談で話しておられたことだったと思うが,スナック等でトイレを使ったときに,前に使った人が汚したままにしておくのは許せないと憤慨しておりました。しかも今汚したばかりかと思える状況にはほんとうに腹立たしく我慢がならないと嘆いておられました。
 氏はそのようなときに誰が汚したかわからない便器の汚れをきれいに拭いて出てくるのだそうです。なぜそんなことをしなければならないのか,相手の方が聞いたところ,勝氏が出た後に誰が入るかわからない。そしてその汚れたままのところを見たときに「勝はトイレを汚して始末もできないのか」と思われるのが辛い。だから誰が汚したかわからない汚れであっても,きれいに拭いて出るのだと。「なんで私がスナックのトイレ掃除をしなければならないのか」いつも腹立たしい思いをするのだと語っておられました。確かに人気商売で,築いたイメージを守るためにも細心の気配りが常に必要なのだと思う。豪放磊落に見える勝氏の繊細な一面を見る思いがしたのを覚えている。ことほどさようにトイレほど社会生活の中で常に身近で目的が共有されていながら,使い方によって人々の心にさまざまな影響を与える存在も少ないのではないか。そしてそこは人々の善意と気配りが活かされる場であると同時に,人間模様が生まれる場であることも間違いないことだと思う。そこがいつも清潔で爽やかな気持ちで利用できる場であったらどんなに素晴らしいことではないかといつも思う。
 私は仕事の関係で全国を走り回ってきた中で,様々な施設のトイレ,街の公衆トイレ等にはお世話になりました。そして公衆トイレは素晴らしく進化してきたと思う。中でも,最も変革したのはJRの駅のトイレではないだろうか。民営化されてトイレに対する気配りが出来てきたように思います。JRが最も変革したのはトイレではないかと思うくらいです。しかし,まだまだ和式の公衆トイレで是非とも改善してほしいところところが全国には数多くあります。その中で私がどうしても我慢できない改善してほしい要望が一つあります。あまねくトイレの機器を設計製作される方に一言申し上げたい。それは,水洗のノブ(取っ手)を手で押すか足で押すのか位置を明碓にしてもらいたいことです。和式の場合はすぐ足元にあったり,地上30センチメートルくらいのところなど,設置位置がバラバラです。つまり,用が終わって水を流すときにノブを手で押すか足で押すかの問題です。誰が見てもこれは足で押すであろうと思われる位置であれば問題はないわけです。ところが中途半端な位置で,手で押す人もいるだろうけれど足で押す人もいるだろうな,と思わせる位置に設置されているのが困るわけです。これは本来手で押すべき設計なのだろうな,と考える一方で,しかしこの高さだと足で踏む人もいるだろうなと悩みつつトイレットペーパーなどを重ね,手でノブを押すわけです。そして後にはいつも不快感が残ります。これは誰が見ても手で扱うだろう,また,これは誰が使っても足で踏む位置だと思える明確さがあればこの問題は解決し,全員が気持ちよく使用できるのにと思います。
 特に,公衆トイレは不特定の人たちが使う場であり,他人の後に使うときには清潔であり,気持ちよく使えることに誰しも期待する場でもあります。
 トイレはその使いやすさ,清潔感,使い勝手すべての面でその国の,あるいはその地域の文化度の高ささえ測れるのではないかと考えております。どうか建設設計に携わる設計士の方々にご一考をお願いしたいと患います。
 いつか機会があったら叫びたいと考えておりました。今回もしこのささやかな私の叫びをご採用いただけるなら無上の喜びであります。
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