有限会社 三九出版 - 還暦盛春駆ける夢     北の大地でアコーディオンを奏でる


















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還暦盛春駆ける夢          大地アコーディオンでる
                         西方 正治(北海道札幌市)

 まさに,この原稿を書き始めようとしたとき,東日本大震災が発生しました。信じ難い光景が生々しく映し出されるテレビ映像をただ唖然と見守るのみ。まずは被災された皆さまに,心からのお悔みとお見舞いを申し上げます。自分にはささやかな支援しかできませんが,なんとか一日も早い復興を願っております。
さて自分はこの4月で満70歳を迎えましたが,昨年(平成22年)3月に東京でのサラリーマン生活を卒業し,同4月に横浜から転居してきました。
 友・知人からは「なんで今更,寒さの厳しい北海道に移住しなければならんのだ?」と詰問されたりもしましたが,高校時代まで北海道の田舎町で育った道産子の自分にとっては,謂わば「帰巣本能」とでも云えるのでしょうか。老後のライフスタイルは「自然豊かな北の大地で,ゆったりとしたスローライフを!」というのは若い頃からの願望でした。
 最初のチャンスは現役引退時(60歳)でしたが,さすがに当時は「娑婆」への未練を捨てきれず,第二の職業人生を優先したため実現できませんでした。今回やっとその望みが叶ったという次第です。転居の決断に際しては,妻も札幌郊外の出身であることや兄弟・親族の殆どが札幌ないしその周辺の道内に居住しており,特に自分と妻双方の兄弟達からの強い帰郷要請を受けていたことなどが促進要因となりました。
 さてさて,47年間のサラリーマン時代は仕事中心の生活で,リタイア後に熱中できる趣味などとも無縁であった自分でしたが,どことなく哀調をおびた透明なアコーディオンの音色にいつしか興味を覚え,いつの日か自分も演奏できるようになりたいとの夢を抱くようになりました。そして今から16年ほど前,逝去した叔父の形見として何とアコーディオンがあるのを知り,なかば強引に譲り受けてきたのですが,その後は永い間納戸の奥に放りっぱなしのままでした。
 そんなこんなの経緯があり,躊躇なく「アコーディオン演奏に挑戦」を新生活の生き甲斐とすることとしました。
ところが,こちとらは音楽の素養などこれっぽっちも持ち合わせておりません。終戦直後(昭和22年)に入学した北海道の田舎の小さな小学校には,教材としての楽器など皆無であり,楽器に触れることもなく今日に至ってしまいました。勿論楽譜を読むこともできず,まさに未知への挑戦となります。
 転居後の整理も一段落した昨年夏ごろ,基礎の基礎から学ぶべく札幌市内の楽器メーカーや楽器店の各種音楽教室,新聞社その他の文化カルチャー,行政機関の各種カルチャー教室などを調査した結果,アコーディオン教室は全く開講されておらず,如何にマイナーな楽器かを思い知らされました。しかし,その音色に魅せられ,趣味でアコーディオン演奏をするアマチュアは市内にも少なからず居り(個人的に教室を持っている人も居る),その中の一人でもあるT氏と知り合うことができました。
 現在は,「アコーディオン教本(初・中級編)」を教材にして自宅自習を基本とし,2週間に1回,T氏のレッスンを受けに行くという練習内容ですが,頭が固くなり動作も鈍り始めた高齢者にはハードな練習です。音楽用語やその意味を覚えるにも四苦八苦。ましてや実技編においておや……。楽譜を見ながら,右手でメロディーを,そのメロディーに対応した「ベース」と「コード(和音)」,更には「ベローズ(蛇腹)の開閉」を左手で同時に操作するという,かなり複雑な動作となります。右手指に集中すると左手指が疎かになり,左手を気にすると右手がスムーズに操作できず,頭の中と手指の操作がパニックに陥ることもしばしばです。とはいえ頭と手指を駆使するわけですから,「ボケ」の防止対策としてはかなりの効果が期待できそうです。
 挑戦を始めて半年余り,まだまだ「曲を奏でる」までには至りませんが,日々新たなことにチャレンジできるのは,実に新鮮で間違いなく生活の張りにもなっています。
 「習うより慣れろ」という格言もありますが,音楽教師をしていた高校時代のクラスメイトからのアドバイスは「たとえ短時間でも,毎日楽器に触れるのが上達への道」ということでした。このアドバイスに従い,タンゴやシャンソンまでは無理としても,3〜4曲の童謡や歌謡曲を「家族や友人に聴いてもらえるようになる」を当面の目標として,その実現に向けて鋭意努力中です。
 福祉施設などでの慰問演奏ボランティアの実施や,仲間と協力しながらミニライブの開催など,将来の夢も次々と膨らんでゆきます。身近な目標を一つひとつクリアしながら更なる新たな目標に挑戦し,それを生き甲斐としてスローライフをエンジョイしたいものです。ともあれ,皆さんに聴いてもらえる日の早からんことを……。
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