有限会社 三九出版 - 連 句 は 面 白 い (その2)


















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《自由広場》 
                   連 句 は 面 白 い (その2)

                            吉成 正夫(東京都練馬区)

 前号では,連句の「あらまし」についてご説明しました。今回は,個人的に感じている連句の感想を中心にご説明いたします。
 まず,俳句は自分一人の世界で完成される文芸です。一方,連句は連衆(連句の座を組む仲間)を含め周囲の人への気配りを大切にします。芭蕉は訪れた土地で俳諧を興行しました(現代の連句を巻くこと)。客人である芭蕉がまず土地の風物などを愛でた句を詠み,一座の人に挨拶します。これが発句です。次にホスト役が発句を賞玩する句を詠んで「よくいらっしゃいました」と挨拶します。これが脇句です。挨拶を終えて,「それでは」と第三の句から改めて連句を巻きはじめます。このように挨拶と気配りが基調になっていますので,句を付ける連衆は,三句ないし四句の付句を示して「どうぞあなたのお気に入りの句をお採りください」と次の連衆に敬意を払います。付句も次の連衆につなぐ気持ちを表すために切れ字を避け,余韻を残す付句とします。
 人は十人十色。知識,経験,性格,好み等,まちまちです。自分独りではどうしても作品に偏りがでてきます。広く天地を詠みこもうとしても自分の知らない世界が多く,手に余ります。そこで仲間の力を借りて広がりのある作品とするのが連句です。ですから連衆は老若男女,職業も別々,出身地も別々の方が,ふくらみのある世界を提示する作品になるに違いありません。ただ,うまく舵取りしないとバラバラでまとまりのない作品になってしまいます。そこで連句会には船長役である「捌き」を置いています。 連句は感性の世界ですから作品についての議論が沸騰することもあります。その議論で決着できないときは,議論は議論として楽しむとして,最後には捌きが決定し,連衆はその判定に従います。
 現在私が楽しんでいる連句会の一つは高校時代の同級生ですからお互い遠慮なく意見を交換します。基本的には「衆議判」でやっています。「ああだ。こうだ」と時間はあっという間に経っていきます。ボケ防止には最適の遊びではないでしょうか。高校時代の友人の連句会は11年続いています。連衆の範囲は狭いのですが,これはこれで毎回同窓会をやっているようなもので楽しいものです。
 これだけ面白い連句でありながら,連句人口が増えないのは,連句が時代の変化に適応していないからではないでしょうか。「三冊子」には,芭蕉の言葉として「新しみは俳諧の花」とあります。また,歌仙「市中(いちなか)」に,「発句 市中は物のにほひや夏の月 凡兆」「脇 あつしあつしと門々の声 芭蕉」というのがあります。和歌の風雅の世界から脱し,卑俗な世界を句に詠みこむことを試みています。このように次々に俳諧の境地を変化させていった芭蕉にとって,現代の連句はもっと「新しみ」がほしいという感想を持つのではないでしょうか。
 わが国は,戦後の廃虚から高度成長経済へ。そしてバブル崩壊、失われた20年へと私たちを取り巻く環境は激変いたしました。それとともに世代間の感覚・考え方も大きく変わりました。現代連句も状況の変化に応じて若い人たちの住む世界,感性を取り込んでいかないと連句は私たち高齢者の世代だけの文芸として自然消滅しかねません。
 連句は「座の文芸」といわれ,俳句とちがって遊びの文芸です。付句というカードを自在に切りながら詩情とリズムを競う日本固有の文芸が伸び悩んでいるのはもったいないことです。俳句では「俳句甲子園」が催され若手の登竜門として存在感を示しています。連句も,県によって国民文化祭が催され,連句部門があります。ここに若者が参加しやすい若手部門を設けたり, ルールやテーマに一工夫凝らしていくならば,若者が参加しやすくなり,連句人口の増加を期待できるのではないでしょうか。

 最後に余談です。
 連句では,付句の世界を「人情」と人情の係わらない「場」で構成しています。「人情」には「自情」「他情」「自他の情…恋など」に分け,いわゆる「自他場」の変化で「転じ」をルール化しました(芭蕉の門人,立花北枝の考案とされる)。
 唐突な話で恐縮ですが,村上泰亮氏は著書「反古典の政治経済学」のなかで,「人間のイメージする世界」を事物(または自然),他人,そして自分(自我)という要素で構成されていると述べています。私は,それにヒントを得て,社会科学は「自他場」の相互関係はもちろんのこと,「自−自」「他−他」「場−場」の関係のなかで整理するならば,もつれた糸を整理できるのではないかと考えました。
 連句と社会科学の考察が「世界」を介在にぴたりと符合したことは大変な驚きでした。

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