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《自由広場》 

不確実性の経済を考える・第4回
                   ケ イ ン ズ の 人 物 像
                            吉成 正夫(東京都練馬区)

 ケインズ没後,約70年経ちました。これまで古典派経済学は正統派経済学の位置にありました。ところが2008年のリーマンショックで大打撃を被り,理論のあり方が大きく揺らいでいます。苦しい時のケインズ頼み。1930年代の大恐慌のときもケインズは救世主でしたが,今回もケインズ理論復活の声が高まってきています。
 ケインズが天才であることは誰しもが認めることでしょう。スキデルスキーの著書からケインズの人物像をご紹介いたします。
○思想の背景 : 「ケインズの思想は, 特定の時代,特定の地域にその起源をもっていた」スキデルスキーの重要な指摘です。時代状況によってケインズの思考は柔軟に変貌していったことを意味しています。 ですから没後70年を経たあとで,ケインズ思想が正しいとか誤りであったとか議論すること自体が意味を持ちません。ケインズの経済理論を学ぶことは大切ですが,時代は大きく変化していきます。そこにケインズは立ち会っていないのですから,それをどのように観察し理論構成していくかは我々同時代の人の責任と考えます。
○ケインズの時代 : 1883年に生まれ,1946年に没しました。彼は,「平和」と「繁栄」と「進歩」が自然の秩序であると想定することのできた世界で生を受け,その後,これらの期待がすべて崩壊していく有様を観察するのです。
青年時代は,ブリテン島が強大な帝国の中心地でした。しかし,彼の生涯の最後の数か月間は,アメリカに借款供与嘆願のために奔走を余儀なくされました。
まさに彼自身が確実性から不確実性へ移行する過程を歩んだ人生でした。
○ケインズの家庭環境 : 父はケンブリッジ大学の哲学者兼経済学者であり,母は牧師の娘で,婦人教育活動に熱心でした。ハーヴェイロード(イギリスの知識人が集まる街)の住人で,両親から高い知性を引き継ぎ高邁な家庭の雰囲気の中で育ちました。一家に出入りする一流の経済学者や哲学者たちと交流し知性を磨きました。
○ケインズの経歴 : イギリスの名門校イートンに入学できる給費生の資格を得, イートン校では数々の賞を受賞しました。数学を最も得意としていましたが,適応能力は抜群で,特待生兼運動競技者として周囲の敬意をかち得ていました。
1906年には高等文官試験に合格しましたが2位に留まり,希望の財務省ではなくインド省に入りました。インドの金融制度の知識を身につけ,その間に「蓋然性」についての論文を執筆し,キングズ・カレッジのフェローの資格を取得しました。これにより生涯ケンブリッジ大学が学究活動の本拠地となりました。
○ケインズの交流関係 : 学部の2年生の時に, ケンブリッジ大学の秘密結社「アポスルズ」の会員に選ばれました。彼はここで生涯において重要な役割を果たした友人たちを得たのですが,特に哲学者G・E・ムーアの「倫理学原理」(1903年)は,両親の社会的規範や性的規範を破棄することを正当化する哲学となりました。
また彼は同性愛者であって,友人から画家のダンカン・グラントを盗み,ストローベリー内部で波風を起こしました。
○ケインズの妻 : バレリーナのリディア・ロコポヴァと初めて出会ったのは1918年10月のディアギレフ・バレェ団ロンドン公演のときでした。小柄で生意気で上向きの鼻をもったエキゾチックなバレリーナの素晴らしさと人柄に魅了されてしまっ
たのです。このとき彼女は結婚していましたが,やがて同棲し,1925年8月に結婚しました。周囲の予想に反して彼女は申し分のない妻でした。彼女はケインズの生活に欠けていた感情面の安定性を取り戻し,この感情の安定性が彼の知的活動を支える基盤となったのでした。
○ケインズの投資 : 事実上のヘッジファンドを作り投資(投機)しています。彼は市場のシステムがどのように動いているかを理論的に把握する能力に優れていました。投資対象は主に通貨と市況商品でした。彼の経済理論は自らの実務経験に基づいています。それは投機家・投資家としての経験であり,また政府の官僚・金融機関の役員としての経験もありました。ただ現在の感覚からすると,インサイダー取引ではないかと疑われかねない行為があり,また実際の資金よりはるかに上回るレバレッジ(梃子の原理)を利かせたリスクが高い投資行為でした。実際,生涯に3度破産に瀕しましたが,最後には友人のダンカンと妻に巨額の資産を残しました。

 ケインズは,時代の大変動のなかで,固定した枠組みにとらわれない思考の持ち主でした。だからこそ「不確実性」を核心においた理論を構築できたのです。
 次回は,不確実性をテーマとする「ケインズの美人投票」を取り上げます。




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