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☆《自由広場》 

             日 本 語 教 師

              山口 康弘(大阪府大阪市) 

 この春,一念発起し,日本語教師を始めました。
 これまでも幾度か職を変えてきましたが,従事してきたのは全て営業職。職種を変えるという意味では,今回が初の転職となりました。
 職場の感想を述べる前に,少し外国人留学生事情に触れさせていただきます。
 まず,外国人留学生数ですが,近年増加する一方で,政府目標の20万も,既に突破しました。その内訳は,大学,大学院で11万,専修学校4万,各種日本語教育機関に6万弱といったところです。
 大学の国際化は,まさしく国の施策でもあり,スーパーグローバル大学というのも指定されています。タイプAに選ばれたのは13校。それらの大学には,年額最大5億円(最長10年)の補助金が出されています。タイプBの24校にも年額3億円,まさしく安倍バブル状態。
 しかし肝心の選定基準ですが,派遣留学生増,外国語による授業増,外国籍教員の割合増,海外オフィスでの発信力,留学生受け入れ増,学生の語学力アップ等,多岐に亘っており,審査基準の曖昧さを指摘する声もささやかれています。(加計問題もありましたし……)
 補助金を受けている一部の事例を覗き,多くの学校の国際化は,生き残りをかけた戦略です。
 受験年齢層の人口減少。日本人の穴埋めを,なんとか外国人で……というのが,留学生獲得競争のもう一方の実情でもあります。
 実際,国力を維持していくには国を開くしかなく,介護現場を筆頭に,労働力確保のため,留学生の受け入れ先は増え続けていきそうです。
 留学生の増加に伴い,日本語教師の求人も増えています。また,給与面も少しずつ改善されてきました。そんな時流に乗って,自分も転職を決意したわけですが……。
 塾で国語を教えた経験もあり,何より日本人なんだから日本語くらい教えられて当然だろうと,ある意味たかをくくっての転職でした。しかし,やってみて,教える難かしさに愕然としました。
 まず,漢字。
 特に非漢字圏の学生にとっては、その形を覚えるだけでもたいへんなのに,中途半端に中国から取り入れられた日本漢字は,同音異義だらけで,文脈のニュアンスが通じない留学生は混乱するばかりです。
 ひらがな,漢字で手一杯なのに,カタカナ文字も覚えなければなりませんし,擬音擬態語(オノマトペ)にも頭を抱えています。
 そして,彼らにとって最も頭痛の種なのが,「助詞」。

 むかしあるところにおじいさんとおばあさん が 住んでいました。
 おじいさん は 山へしば刈りに,おばあさん は 川へ洗濯に……

 「先生、おじいさんとおばあさん は 住んでいましたは,ダメですか?」
 「おじいさん が やまへしば刈りには?」
 「が」と「は」を筆頭に,場所の「で」と「に」の違いなど,説明しているこちらの頭もこんがらかってくるようです。
 くもり始めた彼らの目を見るにつけ, 「どうして日本語を勉強しようなんて考えたの?」と,同情を禁じ得ません。
 今,自分が受け持つクラスの半数以上がベトナム人学生。
 月収平均3万の国から,仲介業者にお金を渡し,高い授業料と生活費。留学ビザでは,週28時間までしかアルバイトが許されておらず,どうしても深夜仕事に。
 親の期待につぶされそうになりながら,眠い目をこすり,必死で日本語と格闘する彼ら,彼女らにとって,今が勝負。そんな時,新米の言い訳なんて通用しない。
 で,彼らに届く例文を練り,準備に準備を重ね,ようやく「わかった」と目を輝かせてくれた瞬間は,何とも言えない満足感に包まれます。
 授業に入る前の,押しつぶされそうなプレッシャー。
 気楽な職場を捨て,なんで好き好んで,こんなきつい思いをしているのだろうと,首を傾げたくなる時もありますが,いくつになっても,やっぱり苦労は買いですね。
 感動と成長を感じられる毎日。日本語教師,面白いですよ。 
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