有限会社 三九出版 - 一 件 落 着か


















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☆《自由広場》 

               一 件 落 着か 

               坂本 進一郎(秋田県大潟村) 

◉相撲取りに人権は必要ないか◉ ― 平成29年11月29日 
 日馬富士は今日引退届を協会に提出。これで騒動が一件落着,と言いたいが,そうでもないらしい。暴力はなくなりそうにないからである。日馬富士が貴ノ岩を殴ったのは「貴ノ岩に礼儀と礼節を教える積りだったが行きすぎた」からだと言う。だが,日馬富士は土俵外,しかも直接の弟子でないのに貴ノ岩を簡単にぼこぼこ殴っている。この行為はモンゴル出身者の上下関係を持ち込んだ結果なのか,いずれにしてもそこに土俵外にも厳然とした上下関係が存在し,そこには封建的な匂いが感じられる。師匠や兄弟子の言う事が絶対で,おかしいと思っても発言できないからである。江戸時代,親分が召使を軽くみなしたように,今度の暴行事件についての沢山の報道で分かった事は,相撲界に基本的人権思想の不足を感じることである。
 基本的人権の不足はまだある。日馬富士は絵が上手らしいが,絵を描くと伊勢ヶ濱親方が絵の具の匂いを嫌がるので,絵を描かないのだという。
 それなら貴乃花の弟子・貴ノ岩の扱いはどうであったか。貴ノ岩は貴乃花親方から緘口令を敷かれ,一言も話せなかったという。これも一種の暴力だ。貴乃花は相撲道を言うなら,弟子の基本的人権を認めるべきである。そうすれば簡単に弟子を叩いたり,口封じをしなくなるであろう。
◉ムラ・ムラの対抗◉ ― 平成29年12月3日
日馬富士暴行事件の原因は何か。“ムラの対抗論”は面白い。というのは,日本の農村にはムラ(集団意識)があった。何を中心にムラ意識を育てたかというと稲だ。稲を作るには水が必要だ。そこで水系(川)の水を守るため命をかけた。他の水系の人が水を盗みに来た時には,喧嘩を覚悟で自分の水系の水を守った。守ると言っても用水堀の止め板の高さは,ムラムラの集まりの話し合いで決められているのでそれを勝手に移動しないように見張ることである。他のムラの人は夜中に来て,止め板の高さを自分の都合のいいようにいじくるからである。テレビで見ていると,相撲部屋は相撲部屋ごとに独立していて,一つのムラのように見える。そこでムラには“ムラおさ”がいるらしい。ムラおさは親方だ。その結果それぞれのムラには親方のムラおさがいることになる。最近はそのムラにモンゴル勢(モンゴルムラ)も加わっている。ところが親方によって,それぞれ相撲観が違う。モンゴルのムラおさは白鵬だ。白鵬は勝てばいいという考えの持ち主のようだ。一方貴乃花は「相撲道」に徹するという美学を持っているようだ。そういう考え方の相違があるところに,貴ノ岩は貴乃花親方にモンゴル会の飲み会に出るなと言われ,モンゴル勢の会合に出なかった。
 ここで日馬富士が何回叩いたかで日馬富士の白鵬に対する考えが分かってくるという仮説を私は持っている。この時貴ノ岩は一次会の白鵬による説教に続いて二次会で
も説教を受けていた。説教が長いのか貴ノ岩はスマホを取り出した。ここで叩く回数が2~3回であれば白鵬の説教を説教として受け止められると思う。ところが日馬富士は貴ノ岩が大横綱の前でスマホを取り出したことを謝れと言ったが,貴ノ岩は謝ったと言っているが日馬富士には謝っていないように見えた。謝ったか謝らなかったかはこの事件の分岐点だ。 ちゃんと謝っていれば説教で済み事件はなかったに違いない。だが謝っていなければ事件になる。
 日馬富士は白鵬と競いながら,そして励まし合いながら二人とも横綱になった。 そこには盟友としての強いきずながあったに違いない。しかも日馬富士は白鵬をモンゴルムラのムラおさとしてあがめていたに違いない。ところが貴ノ岩は親方の貴乃花からモンゴルの会には出席するなと言われ,モンゴルムラとは疎遠でもある。いわば自らムラ八分(葬式と火事の付き合いは許される)にあったようなものだ。盟友でムラおさである白鵬の話をちゃんと聞かなかった貴ノ岩はムラおさの白鵬に失礼なことをしたことになる。こうして貴ノ岩がモンゴル社会と意思疎通を欠いたことも,日馬富士から暴行を受けた原因と思ってしまう。
 つまり,相撲の美学を追求する貴乃花と勝てばいいんだというモンゴル勢との狭間にあったことと,ムラおさに敬意を払わなかったことで貴ノ岩はモンゴル社会からのムラ八分にあったようなものなのであろう。暴行はその儀式のようなものに違いない。だが貴ノ岩はなぜ二次会参加のため日馬富士や白鵬について行ったのか,そこが今のところわからない。 
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