有限会社 三九出版 - 句文集って 万華鏡!


















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☆<BOOK REVIEW>『句文集 夢はごちそう』 

             ◉読者の声 ◉   句文集って 万華鏡! 

          五島 由美子(東京都稲城市) 

 蒼い空に浮かぶカリヨンとバラ, 素敵な表紙を開くとまもなく,「家出してかくも悴む心意気」という句が目に入ります。読み進むと岡美奈子さんの俳句の師が評するように〝単刀直入で潔く表現する″句にたびたび出合うことになります。確か家出の原因は,お母様のきびしいしつけに依る美奈子さんと,組織の枢要な立場で判断するご主人との,人とのお付き合い手法の不一致だったように覚えています。
 その凛とした生き方を誇らしく思うお母様とのかかわりが,頼りにしていたお兄様のご急逝により,想定外の重みでのしかかってきて,歳経るごとに認識度が低下するお母様への切ない想いを詠む句が占めるようになります。 「母でなし母である日の梅雨晴間」。やがて,何があっても母を最期まで看ると決意しつつも,心ならず施設入所を選択。「身に入むや吾母の意に背きたる」,「涙する母置き去るや去年今年」は読む側の心も痛みます。けれどこれは賢い選択となり,次第にお母様の状態が安定すると,お母様への眼差しも悔恨から慈しみへと変わります。「母の日や昼餉夕餉の好きな母」。寿命を全うしたお母様を立派に送られた後は,お母様への敬慕の情が深まっていきます。「蓬摘むそのあと母のしたように」,「花過ぎや心に母の住める日々」。
 句集の大半はご自身の日常に萌した描写である事は言うまでもありません。
 「忘れずに間引き菜届く嬉しさよ」。ご近所の方々との和やかなお付き合いから,たけのこやナスもいっぱい届いて,料理にいそしむ姿が目に浮かびます。
 小さな時から魅せられていたピアノのレッスンも再開します。ウインナーワルツ,サンバ,雨だれ,じゃじゃじゃじゃあん,まで出てきて,メロディーやリズムが湧き出る心地よさも味わえます。
 中でも家族愛を謳った句は,とどめを刺すように読み手の心に響きます。
海外赴任されたご子息に思いを馳せて,「黄砂来る定まり難き親心」。
そしてダンディーなご主人への賛歌「父に似てカンカン帽の似合う夫」「たばこ買う夫の土産や桜餅」。美奈子さんが還暦のお祝いにグランドピアノを頂いた直後に詠んだ句かもしれません。
 美奈子さんは句文集の発刊で,抱き続けてきた夢の実現という〝ごちそう″を大いに味わっておられることでしょう。 そして私も,ごちそうさまでした! 
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