有限会社 三九出版 - 量子と人間社会(その2)


















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☆《自由広場》
             私の量子ものがたり ⑧  
      量子と人間社会 (その2)

          吉成 正夫(東京都練馬区) 

4.量子は運動量を有するが,内部構造を持たない。
 デカルトは「方法序説」で,自らに四つの規律を課しました。「第1に,明証的に真であること。第2に,できるだけ小さく分割し分析すること。第3に,最も単純なものからはじめて順次複雑なものに進めること。第4に,見落としがないように完全な枚挙と全体にわたる見直しをおこなうこと」の四つです。
第1の規律は,実験とデータによる検証に,第2の規律は分析主義に,第3の規律は,モデルによる経済分析に道を開きました。そうした知見に基づいて生命の神秘を求めて,個体―細胞―分子―原子―素粒子―クォーツと量子単位まで細かく分割してきました。たどり着いたのは「運動量を有するが,内部構造をもたない」という量子の存在です。わたしは当初,「いくら細かく分割しても生命の神秘に辿りつけなかったではないか」と落胆しました。しかし生命の神秘とは何か形あるものではなく「変幻自在,神出鬼没」である量子の運動量そのものではないかと考え直しました。
 量子はおよそ1017~23mとされます。例えるなら、パチンコ玉を天の川銀河の大きさまで拡大したときに,元のパチンコ玉が量子に相当します。
量子は確率的な存在(現れるときは確率に従うの意)なので,パチンコ玉の例えは適切ではありません。あくまでもイメージです。こんなに微小な量子が,あたかも自分の意思をもっているかのように,自分を最大限に発揮しようと頑張っています。意識はどこから来るのか,生命はどこから来るのか,といった疑問に答えるのは量子の存在そのものであり,トートロジー(同語反復)かもしれませんが,生命の神秘は宇宙そのものから派生すると考えるしかありません。
お釈迦様も「色即是空(この世のすべては空であり,実体はない)」と悟りを開かれました。「実体がない。内部構造を持たない」から「色(森羅万象)」から「空(実体がない)」に,「空」から「色」に移り変わっていくと理解されます。ここでも「空の思想」は量子論と重なります。
5.量子はただ一つの状態に決まらない曖昧な存在です。
 本誌61号「私の量子ものがたり④」でハイゼンベルグの「不確定性原理」をご説明しました。物質や自然はただ一つの状態に決まらない「曖昧さ,いい加減さ」が自然の本質であると述べました。
 リーマンショックまで主流を占めていたのは新古典派経済学でした。投資理論ではポートフォリオ理論,金融工学などは統計学や数式を多用することで説明力を強めようとしました。しかし,自然が理論通りにいかないのに,私たちの行動が理論通りにいくわけがありません。その辺のバイアス(歪み)を経済理論に取り込み,理論と実態のすり合わせを試みているのが「行動経済学」や「ゲーム理論」ではないかと考えます。その意味で,21世紀に入って経済理論は量子的な実態に擦りあってきました。
量子は過去ではなく,未来への変化に重きを置いています。「未来」は変わるべきものです。これからも変化のスピードは加速していくと予想されます。このとき問題になるのは教育です。生まれてくる子供は,生まれてすぐにスマホに触る「デジタル・ネイティブ」です。教師が教育できなくなります。2017年に学習指導要領が改訂されました。「主体的に、対話的に、深い学び」と要約されています。教師が知識を生徒に伝えるのではなく,変化しつつある「グローバル化」「情報化」「価値観の多様化」に,生徒が自ら向かい合い,課題と解決方法をみつけ,未来を創造する力を養う教育を目指すものです。まさに量子の特徴に沿った教育を志向するものと評価されます。
6.量子もつれ(量子エンタングルメント)…(「私の量子ものがたり④」参照)
量子力学の世界では,物理的状態を分解して理解できないことがあります。
例えば,一度関係した量子は,どれほど遠くに離れていても,瞬時に関係づけられることを「量子もつれ」といいます。アインシュタインは速さの限界を「光速」と規定していましたので,最後まで「量子もつれ」を認めませんでした。現在では,「量子もつれ」の研究は物理学の最先端を走っています。いずれは量子力学(ミクロ)と一般相対性理論(マクロ)の「統一理論」の構築を目指しているそうです。
「量子もつれ」は物理学では最先端の理論ですが,わたしが関心を持つ社会科学,なかでも経済,金融,証券に関しては,とりあえず脇に置いて考えてよさそうです。
 先日,ノーベル経済学賞が発表され,政策の効果を実験で検証する「開発経済学」に与えられました。最近の受賞は,純粋理論経済学から,心理学的視点から経済,金融を考える「行動経済学」や「ゲーム理論」など,人間行動に密着した経済理論が受賞しています。量子理論の「関係性」と親和性のある傾向であると歓迎されます。 
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