有限会社 三九出版 - 富山の夏と私のおわら風の盆


















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                富山の夏と私のおわら風の盆
                          木村 孝(富山県富山市)

 日本海側の夏は短い。そんな夏の終わりに我が町八尾は「おわら風の盆」で大勢の人出で賑わう。私も物心ついた頃から踊りを始め,地元の大学生の頃まで踊っていた。有名になった今では八尾の若者達にとって「おわら」を踊ることが一種の誇りのようであるが,私達の頃は「おわら」なんかとバカにして同級生達の半分以上は参加していなかった。私は三味線や胡弓の音色をバックに何度も同じ踊りをただただ繰り返すこの「おわら」に何故か惹かれている。宵闇にボンボリの明かりが灯る中で,ゆっくりとした所作を繰り返す。ハイトーンな歌声に独特の節回し,哀調をおびた胡弓の音色,三味線が規則正しいリズムを刻む中で踊る。柔らかく,時に強く,そしてしなやかに。大勢の見物人がいる中で踊っていると多分脳からドーパミンが溢れ,ハイな状態になる。まさに陶酔の世界に浸れるのが私にとっての「おわら」の魅力だ。
 東京に17年住んだ。帰省は8月の旧盆がほとんど,しばらく私の「おわら」にブランクがあった。そして富山に戻って9年目の夏を迎える。この歳になって本チャンで踊ることはままならないが(おわら行事の踊り子は25歳までと年齢制限がある),せめてもう一度あの輪の中で人目も気にせず踊り続けてみたい。今年は西町(旧町で私が生まれ育った町)の幼なじみの家で9月3日の夜に同級生数人と集まることになっている。引っ越したので今は「おわら」に行っても居場所がない。部屋を提供してくれる幼なじみに本当に感謝し,今から楽しみにしている。当日は浴衣に袖を通し,久々に陶酔するほど踊ってみたい。
 ――「おわら風の盆」は9月1日〜3日,富山市八尾で開催される。古い町並みと哀調をおびた盆踊りで全国からたくさんの人が小さな片田舎につめかける。高橋治の小説「風の恋盆歌」や石川さゆりの歌で人気となり,毎年多くの著名人や芸能人もお忍びで訪れるという。ちなみに毎年まちの噂で「今年もキムタクが来てるって!」という声を耳にするが,実際にキムタクを見た人はまちのどこにもいない……。
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